2012年7月16日月曜日

彼女が恋した酵母菌



昔、勤務していた職場に酵母菌に恋をした女性がいました。
彼女は、日々たくさんの酵母菌を部屋で育てているのだと言いました。

普段、物腰が柔らかくささやくように話す彼女が、やや熱っぽく酵母菌の温度調整や湿度などに
ついて弾むように話す姿にわたしは、彼女のちいさな部屋のなかでブドウやリンゴや様々なものが
発酵してゆく様を想像してみました。
さぞ鼻に付く香しい香りをまとうのだろうか。そしてそれを彼女は愛しく見つめ、プランター野菜の栽培
のように大切に育てているのだろうか。などと想像を膨らませてはみたけれど、あまりピンと来ないまま
だったわたしの目の前に、すっと差出した彼女の手の中には、ちいさなパンがのっていました。

そう彼女の酵母菌はパンになっていたのです。

その時食べた彼女の酵母パンは、あまり口にした事の無い素朴で深みのある優しい味がしました。
あ、この深みは彼女の育てた酵母菌の酸味。その時やっとピンときたのを覚えています。
パンって酵母によってこんなにも味が変わるんだとそう改めて気が付いた時わたしは、
『あぁ...。最高の朝食みたいな幸福が味わえるちいさなお店がやりたい。』そう、思いました。

余白のある白いお皿に盛りつけられたワンプレートの朝食。
朝摘みした新鮮できれいなグリーンサラダとハリのある鮮やかな黄身の目玉焼き、香ばしい腸詰め
ポークウインナーに黒胡椒。それと、彼女の焼いた酵母パンにコクのある生乳バターと
コッツウォルズのはちみつを乗せたハニートーストを挽きたて珈琲と一緒に頂く。

彼女の酵母パンに感化されたそんなわたしの想像は、パン屋さんやcafeを始めようというのではなく、
そんな最高の朝食を詰め込んだ白いお皿のようなお店ができたらいいと、そう思いが巡った一瞬なのでした。

それから、4年以上の時が経ち、わたしはちいさなお店を開店しました。
彼女もきっと、ちいさな彼女の酵母菌を今も大切に育て続けているのだろうと思います。



2 件のコメント:

  1. 今日もおじゃまさせていただき、楽しかったです。 人と人との出会いやつながりって本当に不思議ですね! 
    ではまた~☆ 
    PS.コメント入力できました。私のやり方が間違っていたみたいです・・・。

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  2. つちやさま

    本日はサプライズで素敵なゲストさまをお連れ頂き、本当に有り難うございました!
    本当にびっくりいたしました。繋がるんですねー。父にも伝えたところ大変喜んでおりました。
    ではまた、いつでも遊びにいらして下さいませ。お待ちしています。
    PS.コメントは、わたしのミスでした。あの後、全員公開解除に直しました。ご迷惑お掛けしました☆

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